ハル移動平均線(HMA)とは?遅れはほとんどないが、代償は行き過ぎ
「HMAはほとんど遅れがなくて、EMAよりも速い。方向を判断するならこれがいちばんでは?」
HMAが速いのは確かです。「速い移動平均の2倍から遅い移動平均を引く」ことで、移動平均の遅れの分を前に押し戻しているからです。その代償として、押し出しすぎると価格そのものの範囲の外まで飛び出し、レンジでは小さな値動きのたびに向きを変えます。この記事ではまず4本のローソク足で一度計算し、次に 1〜5 の番号を付けた実際のチャート(ドル/円、2022年)で、HMAとSMAを並べて比べます。
この記事は MASQuant の「トレーディングアカデミー・テクニカル指標大全」シリーズの1本です。すべての指標の分類はテクニカル指標大全にまとめています。
ひと言でいうと
HMA=2本の加重移動平均の差で移動平均の遅れを取り戻し、もう一度なめらかにしたもの。
答えてくれる問いはふつうの移動平均と同じで、「最近の価格はどちらに向かっているか?」です。ただ、答えるのがより速いのです。
HMAは、車を運転するときにバックミラーではなく前方を見るようなものです。ふつうの移動平均は「今走ってきた道がどちらに曲がっていたか」を教えてくれます。HMAは直前の速度から「次はだいたいどこにいるか」を推定します。まっすぐな道ならとても正確ですが、急カーブでは少し飛び出してから戻ってきます。速いのは推定しているから。行き過ぎるのも、推定しているからです。
まず計算してみる:HMAが価格の外に出るしくみ
計算しやすいように、4本のHMAを使います。終値は順に100、102、104、106です(以下は説明用の整数であり、相場データではありません)。WMAは加重平均で、新しい価格ほど重みが大きくなります。
| ステップ | 計算式 | 結果 |
|---|---|---|
| 2本のWMA(速い) | (106 × 2 + 104 × 1)÷ 3 | 105.33 |
| 4本のWMA(遅い) | (106 × 4 + 104 × 3 + 102 × 2 + 100 × 1)÷ 10 | 104.00 |
| 2 × 速い − 遅い | 2 × 105.33 − 104.00 | 106.67 |
4本の終値の最高は106なのに、「2 × 速い − 遅い」は106.67になり、どの終値よりも高くなります。これがHMAの遅れを減らす方法です。速い線が遅い線より多い分をもう一度足すことで、一歩前に押し出しているのと同じことになります。最後のステップでは、この結果にもう一度短いWMAをかけて、線を少しなめらかにします。
ふつうの平均(SMA)は、平均される数字を超えることはありえません。HMAは超えることがあり、だから反応が速く、行き過ぎもするのです。
正式な計算式
よく使われる設定は20です(9、16、55を使う人もいます):
1 速い線 = 終値の10期間WMA(期間の半分)
2 遅い線 = 終値の20期間WMA
3 元の値 = 2 × 速い線 − 遅い線
4 HMA = 元の値の4期間WMA(√20を整数にしたもの)
HMAは2005年にAlan Hullが考案したもので、「なめらかで、しかも遅れない」移動平均を作るのが目的でした。実際には両方を同時に満点にすることはできず、遅れが減るぶん、ノイズが少し増えます。
MT5にはHMAが標準搭載されていないため、カスタムインディケータを別途導入する必要があります。バージョンによって最後のステップの期間を整数にする方法が違うことがあり、値がわずかに異なる場合があります。
チャートで見る:ドル/円2022年、1〜5 の順に
下のチャートは、ドル/円(USDJPY)の2022年5月初めから2023年1月中旬までの日足で、MT5の過去の価格データから取っています。レンジ、上昇、下落を順にたどりました。5月から8月中旬までは終値が126.8から138.9の間を行き来し、8月中旬から10月20日までは134.18から150.10まで11.9%上昇、その後2023年1月17日までに128.08まで下がり、高値から14.7%下落しました。オレンジの線がHMA(20)、紫の線が20期間の単純移動平均SMA(20)です。

レンジでは、HMAはずっと向きを変え続ける(2022年7月1日)。レンジの区間(すべての移動平均に値が出るところから数えて)では、HMAは8回向きを変え、20期間EMAは3回、SMAは1回だけでした。HMAは小さな値動きのたびに上下しています。
価格の高値:2022年10月20日、終値150.10。
HMAは高値の2本後に天井をつける(10月24日)。翌日にはもう向きが変わったのがわかり、そのとき価格は高値から1.5%下がっていました。
SMAが天井をつけるのは高値の13本後(11月7日)。翌日に向きが変わったとわかった時点で、価格はすでに高値から3.0%下がっていました。20期間EMAはその中間で、11本目に天井をつけ、そのとき2.3%下がっていました。
行き過ぎ:HMAが直近20本の終値の最安値より下に出る(11月21日)。急落のあと、HMAは下に押し出しすぎて、直近20本の中で最も安い終値よりもさらに低くなりました。上昇から下落までの2つの区間で、HMAが直近20本の終値の範囲から飛び出したのは7本ありました。20期間SMAではこうはなりません。平均は、平均される数字を超えないからです。
これは実際の過去の値動きで、HMAの性格を説明するためのものであり、一般法則ではありません。銘柄、時間足、期間を変えれば、数字はすべて変わります。
見えるもの・意味すること
| 見えるもの | ふつう意味すること | ただし注意 |
|---|---|---|
| HMAが上向き | 最近の価格が上に向かっている | レンジでは頻繁に向きを変える(図の 1) |
| HMAが下向きに変わる | 価格が下がるスピードが速くなり始めた | 反応が速いぶん、ダマシも多い |
| HMAがSMAよりかなり早く向きを変える | HMAのほうが遅れが少ない | 図では高値の2本後と13本後(3 4) |
| HMAが直近の価格の範囲の外に出る | 推定していて、押し出しすぎた | ふつうの移動平均ではこうならない(図の 5) |
| 価格がHMAを上下に行ったり来たりする | はっきりした方向がない | このときのHMAの向きは、参考になりにくい |
実際の使い方:3つの例
例1:HMAの向きを決済のシグナルにする
HMAは向きを変えるのが速いので、「少し早めに決済する」のに向いています。「買いポジションを持ち、HMAが下向きに変わったら決済する。」チャートの高値では、SMAより吐き出しがかなり少なくて済みました。
例2:方向は遅い移動平均に、タイミングはHMAに任せる
ルールはこう書けます。「価格が50期間移動平均の上にあるときだけ買う。HMAが下から上に向きを変えたらエントリー。」遅い移動平均がレンジを避け、HMAが転換をとらえる役を担います。
例3:「転換の確認」という条件を加える
レンジでの転換を減らすために、「HMAが2本続けて同じ方向に動いたら」転換とみなす、という条件を付けることもできます。その代わり、また少し遅くなります。速さと安定は、いつもトレードオフです。
3つの例はどれも同じことを受け入れる必要があります。HMAは推定と引き換えに速さを得ています。相場がずっと同じ方向に動いているときは推定がよく当たりますが、行ったり来たりしたり急に反転したりすると、推定は外れ、行き過ぎます。
よくある誤用
1. HMAには欠点がないと思う
HMAは高値の2本後に向きを変え、見事でした。しかし同じチャートのレンジでは8回向きを変え、SMAは1回だけでした。速さの代償はノイズです。
2. HMAをサポート・レジスタンスとして使う
ふつうの移動平均は「押しが止まる場所」として使われることがよくあります。HMAは価格にぴったり張り付いているうえに行き過ぎることもあり(図の 5)、サポート・レジスタンスとして使うと、触れただけであっさり抜けてしまいがちです。
3. 「価格が移動平均の上にある」をふつうの移動平均と同じように読む
HMAは価格の範囲を超えることがあるので、価格がまだ上がっているのにHMAの下に来てしまうこともあります。意味があるのはHMA自体の向きで、価格がその上にあるか下にあるかではありません。
よくある質問
HMAとは何ですか?
HMA(Hull Moving Average、ハル移動平均線)はAlan Hullが考案した移動平均です。「短期WMAの2倍から長期WMAを引く」ことで遅れを減らし、さらに短いWMAでなめらかにするため、SMAやEMAよりずっと速く向きを変えます。
HMAとEMAはどちらがよいですか?
用途しだいです。HMAは向きを変えるのがより速く、転換をとらえたり早めに決済したりするのに向いています。EMAはより安定していて、レンジでのダマシの転換が少なめです。私たちの例では、高値のあとHMAは2本、EMAは11本で向きを変え、レンジではHMAが8回、EMAが3回向きを変えました。
HMAのパラメータはどう設定しますか?
よく使われるのは9、16、20、55です。期間が短いほど速くノイズが多く、長いほど安定して遅くなります。自分の銘柄と時間足でバックテストして比べるのがいちばんです。
MT5にHMAはありますか?
MT5にはHMAが標準搭載されていないため、カスタムインディケータを別途導入する必要があります。
まとめ
HMAは、移動平均最大の弱点である「遅れ」をかなり解消しましたが、その代わりに別の弱点を抱えています。推定し、行き過ぎ、レンジでは小さな値動きに合わせて向きを変えるのです。
ですから本当に問うべきは、決済ルールを「SMAを割り込んだら」から「HMAが下向きに変わったら」に替えたとき、吐き出さずに済んだ分は、レンジで増える売買を埋め合わせるのに足りるのか?です。この問いには、ひとつの過去の値動きでは答えられません。ルールを多くの相場でバックテストする必要があります。
まだ自分のルールがなく、指標を1つずつ組み合わせるところから始めたくない? MASQuant のストラテジージーニーなら、まず投資スタイルを1つ選ぶだけで、AIが相場を分析して銘柄を選び、候補の戦略を一度に3つ出してくれます。どれも過去のデータでバックテスト済みで、リターンと元本の最大ドローダウンを並べて確認したうえで、MT5に導入するかどうかをあなたが決めます。
すでに自分のアイデアがあるなら、条件を1つの文にまとめて、たとえば「価格が50期間移動平均の上にあり、HMA(20)が下から上に向きを変えたときだけ買い、HMAが下向きに変わったら決済する」として、AIストラテジーアシスタントに渡し、ボタンを押せばバックテストが始まります。バックテスト環境にはスプレッド、スリッページ、市場流動性の変化、執行遅延といった実際の市場の摩擦が含まれています(使い方はAIストラテジーアシスタントの使い方をご覧ください)。さらにHMAを20期間EMAに替えてもう一度実行すれば、少し速くすることに価値があるかどうかがわかります。バックテストが教えてくれるのは「このルールが過去の相場でどうだったか」であり、将来の保証ではありません。
アイデアは、検証されて初めて戦略になる。
本文のチャートはMT5プラットフォームの過去の価格データ(日足。プラットフォームによって価格や日足の区切り方が少し異なるため、数値が完全に一致しない場合があります)から取り、指標はプログラムで標準的な計算方法に従って算出しています。例に使った整数は相場データではありません。過去の値動きは指標の性格を説明するためだけに使っており、将来の値動きを示すものではありません。
リスク開示:CFDはハイリスクの金融商品であり、急速に資金を失う可能性があります。過去の実績は将来の結果を保証するものではなく、すべての戦略とバックテストは参考情報であり、投資助言ではありません。取引前に当社のリスク開示条項を十分にご確認ください。



