フィボナッチ・リトレースメントとは?61.8%がいつも当たって見える理由

「また61.8%で止まった!やっぱり黄金比は効く。」

後からチャートを見ると、押しはよくフィボナッチの線のどれかのすぐ近くで止まっています。理由は単純です。23.6%、38.2%、50%、61.8%、78.6%の5本の線が、押しが最も止まりやすい範囲を細かく区切っているので、どこで止まってもどれかの線から遠くないのです。この記事ではまず整数で一度計算し、次に 1〜5 の番号を付けた実際のチャート(シルバー、2024年)で「後から見るとよく当たっていた」押しを見て、最後に9銘柄・764回の押しの統計で、61.8%が本当に特別なのかを確かめます。

この記事は MASQuant の「トレーディングアカデミー・テクニカル指標大全」シリーズの1本です。すべての指標の分類はテクニカル指標大全にまとめています。

ひと言でいうと

フィボナッチ・リトレースメント=上昇(または下落)の起点と終点の間に、決まった比率で何本かの線を引くもの。

答えてくれる問いは「押すとしたら、上昇幅の何割くらいで止まりそうか?」です。「どの線で止まるか」には答えません。

フィボナッチ・リトレースメントは、100メートルの道に間隔をあけて旗を立てるようなものです。23.6メートル、38.2メートル、50メートル、61.8メートル、78.6メートル。人がどこで立ち止まっても、ほとんどの場合すぐそばに旗があります。後から「旗のそばで止まった」と言うのは簡単です。前もって「どの旗のところで止まるか」を言うのが難しいのです。

まず計算してみる:100から200への上昇

ある上昇が100から200まで、100上がったとします(以下は説明用の整数であり、相場データではありません)。リトレースメントの比率は、高値から逆向きに測ります:

リトレースメント比率 計算式 価格水準
23.6% 200 − 100 × 0.236 176.4
38.2% 200 − 100 × 0.382 161.8
50% 200 − 100 × 0.5 150.0
61.8% 200 − 100 × 0.618 138.2
78.6% 200 − 100 × 0.786 121.4

5本の線は176.4から121.4まで並び、隣り合う線の差は11.8〜16.8しかありません。価格が121.4から176.4の間のどこまで押しても、最も近い線からの距離は8.4を超えません。

正式な計算式

上昇の押しの水準 = 高値 −(高値 − 安値)× 比率
下落の戻りの水準 = 安値 +(高値 − 安値)× 比率

よく使う比率:23.6%、38.2%、50%、61.8%、78.6%

比率はフィボナッチ数列(1、1、2、3、5、8、13、21…)から来ています。隣り合う2つの数を割ると0.618(黄金比)に近づき、1つ飛ばして割ると0.382、2つ飛ばすと0.236に近づきます。50%はフィボナッチ比率ではなく、トレードの習慣で加わったものです。78.6%は0.618の平方根です。

MT5のフィボナッチ・リトレースメントは描画ツールで、指標ではありません。「挿入 → オブジェクト → フィボナッチ係数」から「フィボナッチリトレースメント」を選び、チャート上で安値から高値までドラッグすると、各比率の線が引かれます。比率は自分で増やしたり減らしたりできます。線がどこに引かれるかは、どの安値とどの高値を選ぶかで決まります。同じチャートでも、人によって引く線が違うことがあります。

チャートで見る:シルバー2024年、1〜5 の順に

下のチャートは、シルバー(XAGUSD)の2024年4月中旬から8月初めまでの日足で、MT5の過去の価格データから取っています。5月2日から5月20日にかけて、シルバーは25.997から32.486まで、12本で25%上昇しました。その後押しが入り、6月26日に28.547で止まりました。この上昇幅の60.7%を戻したところで、61.8%の線まであとわずかでした。

シルバーの2024年4月〜8月の日足とフィボナッチ・リトレースメントの線。5月に25.997から32.486まで上昇し、押しの途中で38.2%と50%を順に割り込み、最後は61.8%付近で下げ止まった
図:シルバー(XAGUSD)日足、2024/4/16〜2024/8/5、MT5の過去の価格データ。白抜きのローソク足は陽線、塗りつぶしは陰線。5月2日の安値から5月20日の高値までフィボナッチ・リトレースメントを引いています。オレンジの破線は上から38.2%、50%、61.8%、グレーの破線は0%(高値)、23.6%、78.6%、100%(安値)です。右が価格、下が日付で、丸数字は下の説明に対応しています。
1

上昇の起点:2024年5月2日、安値25.997。

2

上昇の終点:5月20日、高値32.486。この2点からフィボナッチ・リトレースメントを引きます(38.2%=30.007、50%=29.242、61.8%=28.476)。

3

終値で38.2%を割り込む(6月4日、終値29.475)。「38.2%で支えられる」と信じてこのあたりで買っていたら、底を打つまでにさらに3.1%下がることになります。

4

終値で50%を割り込む(6月7日、終値29.147)。2本目の線も支えになりませんでした。ここから数えても、さらに2.1%下がります。

5

61.8%付近で下げ止まる(6月26日、安値28.547)。60.7%押したあと、7月11日まで反発し、戻した幅は直前の上昇幅の44.5%に相当しました。後から見れば、61.8%は「よく当たった」ことになります。しかし 3 と 4 の時点では、38.2%も50%も同じようにサポートに見えていました。どの線だったのかは、後になって初めてわかるのです。

これは実際の過去の値動きで、フィボナッチ・リトレースメントの性格を説明するためのものであり、一般法則ではありません。銘柄、時間足、期間を変えれば、数字はすべて変わります。

統計:押しはどこで止まるのか?

1つの例だけでは何も言えないので、統計で見てみます。MT5に付属のZigZag(12, 5, 3)を使い、9銘柄(ゴールド、シルバー、S&P500、ドイツ40、ユーロ/ドル、ポンド/ドル、ドル/円、ビットコイン、イーサリアム)の2015年以降の日足を推進と押しの区間に1つずつ切り分け、それぞれの押しが直前の推進の何%を戻したかを計算しました。

まず1つの数字を見てください。集計した押しは1,477。そのうち713回(48.3%)は、戻りがそのまま100%を超えていました。つまり推進の起点を割り込んで(または上抜けて)しまい、5本の線はどれも支えになりませんでした。残りの、戻りが100%未満だった764回の比率の分布は次のとおりです:

764回の押しの戻り比率の分布を示す棒グラフ。15%前後から現れ、40%以上ではほぼ均等に分布し、38.2%、50%、61.8%の位置に目立った突出はない
図:戻りが100%未満だった764回の押しの、戻り比率の分布(9銘柄の日足、2015〜2026年、ZigZag(12, 5, 3)で区間を切り分け)。横軸は戻り比率で2.5%刻み、縦軸はその区間に入った割合、オレンジの破線は23.6%、38.2%、50%、61.8%、78.6%です。15%未満にデータがないのは、小さすぎる押しはZigZag(12)では1つの区間として切り出されないためです。

もし61.8%が本当に特別なら、その区間は周りより明らかに高くなるはずです。実際の数字は次のとおりです:

戻り比率が…付近(上下各2.5ポイント) 764回に占める割合
38.2%付近 5.9%
45%付近(フィボナッチ比率ではない) 7.1%
50%付近 8.2%
55%付近(フィボナッチ比率ではない) 5.9%
61.8%付近 8.2%
65%付近(フィボナッチ比率ではない) 7.5%
70%付近(フィボナッチ比率ではない) 6.9%

61.8%付近は8.2%、すぐ隣の65%付近も7.5%で、ほとんど変わりません。次に5本の線をまとめて見ます。23.6%、38.2%、50%、61.8%、78.6%の上下各2.5ポイントで、押し全体の31.2%をカバーします。5本の線をまとめて5ポイント上にずらしても27.6%、5ポイント下にずらしても26.8%、均等な間隔の20%、35%、50%、65%、80%に替えると28.0%です。

フィボナッチの組み合わせのほうがわずかに多いものの、差は3〜4ポイントにすぎません。5本の線が「よく当たる」のは、主に押しが最も止まりやすい広い範囲を占めているからです。戻り比率の中央値は63.5%で、38.2%から61.8%の間に入ったのは31.7%でした。

見えるもの・意味すること

見えるもの ふつう意味すること ただし注意
押しがどれかの線の近くで止まる 後から見ると、その線が「反応した」 5本の線は間隔が狭く、どこで止まってもどれかから遠くない
価格が38.2%を割り込む 押しが比較的深い 下にはまだ50%、61.8%、78.6%があり、どれもサポートと呼ばれうる(図の 3 4)
価格が100%(推進の起点)を割り込む この推進が丸ごと帳消しになった ZigZag(12)で切った区間で見ると、押しの半数近く(48.3%)がこうなる
フィボナッチの線が前の高値・安値と重なる この価格には注目される理由がいくつもある 重なりは1本だけの線より参考になるが、保証ではない
高値と安値を選び直すと線が変わる フィボナッチは引き方しだい バックテストでは「どの高値、どの安値か」を明記する

実際の使い方:3つの例

例1:1つの価格ではなく「止まりうるゾーン」として使う

61.8%の1本に賭けるより、38.2%から61.8%を1つのゾーンとして見て、その中で価格が態度をはっきりさせるのを待ちます。たとえば「その日の高値圏で引ける足が出てから入る」といった形です。

例2:必ず損切りとセットにする

ある線でエントリーしたら、損切りは次の線の外側に置きます。チャートで38.2%付近で買い、損切りを50%の下に置いていたら、4 の前後で損切りになっていました。損切りを61.8%の下に置いていれば、5 を乗り切れました。5 の安値28.547は、61.8%(28.476)をぎりぎり割り込んでいないからです。損切りをどこに置くかは自分の銘柄でバックテストして決めることで、どの線のほうが神秘的かで決めることではありません。

例3:ほかの価格水準と重なる場所を探す

フィボナッチの線が直前の高値、キリのいい価格、ピボットポイントとちょうど重なると、その価格が注目される理由が増えます(ピボットポイントの統計はピボットポイントとは?をご覧ください)。重なりは保証ではありませんが、1本だけの線より説明がつきやすくなります。

3つの例はどれも同じことを受け入れる必要があります。フィボナッチの線は、目盛りがとても細かい定規です。押しの深さを測るにはとても便利ですが、押しがどこで止まるかを予測するなら、バックテストに語らせる必要があります。

よくある誤用

1. 後から当たった例を見つけて、前もっても当たると思う

チャートのシルバーは61.8%で下げ止まりましたが、その前に38.2%と50%をすでに割り込んでいました。後から見れば、どの線についても「支えられた」と言う人がいます。前もっては、どの線なのかわかりません。

2. 61.8%に特別な魔力があると信じる

764回の押しのうち、61.8%付近は8.2%、65%付近は7.5%、50%付近は8.2%でした。61.8%が周りより目立って多いわけではありません。

3. 高値と安値を適当に選ぶ

どの安値からどの高値まで引くかで、線の位置はまったく変わります。決まったルール(たとえば「ZigZagで確定した後の高値・安値を使う」)がないと、知らず知らずのうちに「よく当たって見える」引き方を選んでしまいがちです。

よくある質問

フィボナッチ・リトレースメントとは何ですか?

フィボナッチ・リトレースメント(Fibonacci Retracement)は、上昇や下落の起点と終点の間に、23.6%、38.2%、50%、61.8%、78.6%などの比率で参考となる価格水準を引き、押しが値幅の何割くらいで止まりそうかを見積もるためのツールです。

フィボナッチ・リトレースメントはどう引きますか?

上昇なら安値から高値へ、下落なら高値から安値へ引きます。MT5では「挿入 → オブジェクト → フィボナッチ係数」から「フィボナッチリトレースメント」を選び、チャート上でドラッグすると各比率の線が引かれます。

61.8%は本当によく当たるのですか?

2015年以降の9銘柄で、戻りが100%未満だった764回の押しを集計したところ、61.8%の上下2.5ポイント以内で止まったのは8.2%、65%付近は7.5%、50%付近は8.2%で、特に目立ってはいませんでした。

フィボナッチ・リトレースメントは指標ですか?

MT5では描画ツールで、指標ではありません。線の位置は選んだ高値と安値で決まり、相場に合わせて自動で更新されることはありません。

まとめ

フィボナッチ・リトレースメントは便利な定規です。押しがどれだけ深いかがひと目でわかります。よく当たって見えるのは、主に目盛りが細かいからです。

ですから本当に問うべきは、あなたの銘柄で「61.8%付近まで押してから買う」は、「50%や65%付近まで押してから買う」と比べて、本当に結果が違うのか?です。この問いには、ひとつの過去の値動きでは答えられません。ルールを多くの相場でバックテストする必要があります。

まだ自分のルールがなく、指標を1つずつ組み合わせるところから始めたくない? MASQuant のストラテジージーニーなら、まず投資スタイルを1つ選ぶだけで、AIが相場を分析して銘柄を選び、候補の戦略を一度に3つ出してくれます。どれも過去のデータでバックテスト済みで、リターンと元本の最大ドローダウンを並べて確認したうえで、MT5に導入するかどうかをあなたが決めます。

すでに自分のアイデアがあるなら、条件を1つの文にまとめて、たとえば「直前の上昇幅の50%〜61.8%まで押し、しかもその日の高値圏で引けたときだけ買い、損切りは78.6%の下に置く」として、AIストラテジーアシスタントに渡し、ボタンを押せばバックテストが始まります。バックテスト環境にはスプレッド、スリッページ、市場流動性の変化、執行遅延といった実際の市場の摩擦が含まれています(使い方はAIストラテジーアシスタントの使い方をご覧ください)。さらにゾーンを45%〜65%に変えてもう一度実行すれば、フィボナッチの比率が本当に特別なのかがわかります。バックテストが教えてくれるのは「このルールが過去の相場でどうだったか」であり、将来の保証ではありません。

アイデアは、検証されて初めて戦略になる。

本文のチャートはMT5プラットフォームの過去の価格データ(日足。プラットフォームによって価格や日足の区切り方が少し異なるため、数値が完全に一致しない場合があります)から取っています。戻り比率の統計には、同じプラットフォームの9銘柄(ゴールド、シルバー、S&P500、ドイツ40、ユーロ/ドル、ポンド/ドル、ドル/円、ビットコイン、イーサリアム)の日足を使い、MT5に付属のZigZag(12, 5, 3)で推進と押しの区間を1つずつ切り出しました。推進区間の高値が2015年1月以降にあり、しかもその後に確定したものだけを数えています。ZigZagのパラメータが違えば、切り出される区間も比率も変わります。例に使った整数は相場データではありません。過去の値動きは指標の性格を説明するためだけに使っており、将来の値動きを示すものではありません。

リスク開示:CFDはハイリスクの金融商品であり、急速に資金を失う可能性があります。過去の実績は将来の結果を保証するものではなく、すべての戦略とバックテストは参考情報であり、投資助言ではありません。取引前に当社のリスク開示条項を十分にご確認ください。